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フロンティアハンター・後編

a side story ビッケ篇

ポッケ村、数日前

「馬鹿なっ!」

シャーリーはドンっとテーブルを叩くと立ち上がり、村長を見据えた。狩りにあっては超重量のハンマーすら振り回すシャーリーの腕力だ。テーブルの上の物がひっくり返らなかったのはけだし幸運であったと言える。

「あの娘を贄にするとでも言うのですか!」
「…そうではない」

沈痛な面持ちをたたえた村長はきっぱりと否定はしたが、すぐにその目を深い皺に埋める様に伏せ、力なく続けざるを得なかった。

「そうではないが、我々が把握している範囲ではトレミアの血脈以外に打つ手がないこともまた、否定できん」   atention.gif
「………」

ビッケが樹海に発って数日。シャーリーはこの村に来てからの疑念を村長とギルドマネージャーにぶつけた。ビッケへ回って来るGクラスの狩猟依頼。その「段取りは」あまりにもスムーズすぎた。スムーズどころか何かを焦るかの様にその段階を上げようとしていると思わざるを得ないペースだ。
シャーリーが専属としてここに来る必要などなかったくらいに次の狩りも、そのまた次の狩りも決められていた。

あの娘が「黒の継承者」の娘であり、古くから龍殺しの力を受け継いできたトレミアの末裔であることは聞かされていた。だからシャーリーはその「血」が暴走したり、その力が無闇な負担をあの娘に及ぼさない様にギルドがバックアップし、その窓口として自分がいるのだと思っていた。

が、実際はどうだ。これではまるで無理を強いての性急なその「血」の覚醒を促すプログラムの一端をになっているかの様ではないか。ギルドナイツは時には非情に事にあたらなければならない職務ではある。だが、あの子を育ててきた村長やギルドマネージャーはどこまで…。
だから、シャーリーは意を決して事の真相を問い質したのだった。果たして村長の口から出た返答は「その通りじゃ」という物だった。

「無論誰一人としてあの娘にすべてをおっかぶせて安穏として良しと思う者などおらん。   atention.gifそれぞれがそれぞれの手を尽くして打開策を練っておる。が、間に合わねば…やはりあれに頼るよりないのも事実じゃ」
「ですが…大体黒龍の降臨は火山深奥における紅龍誅滅をもって鎮まったのではなかったのですか。こんな短期間にまたそれが起こるなどとは…」
「それが我々が事を急いている理由でもある。   atention.gif紅龍ミラバルカンは確かに先代のトレミアの娘によって討ち滅ぼされた。それは間違いない。が、伝承によれば四門の血脈の末裔にその徴が現れた時と災厄の出現が軌を一にするのもまた事実じゃ」   atention.gif
「また、黒龍が現れると…」
「分からん。先が読めん。これまでこのような事態は一度も起こっとらん。じゃから打てる手はすべて打っておかねばならん。…これはあの娘の母親の下した結論でもある」   atention.gif
「……しかし」

何をムキになっているのだ、自分は。とシャーリーは思った。本当はたずねるまでもなく村長の言い分は分かっていた。でも、シャーリーにはとても「あの子」がそのような存在には見えなかったのだ。あの小さな双肩に一体我々は何を負わせようというのだ。

「……しかし、では進めている打開策とは何なのですか」
「おぬしも古の都シュレイドに赴いたことがあるじゃろう。今なおあの土地はこの世の理からずれてしまっておるままじゃ。黒龍そのものがこの世の理とは位相の異なる存在なのよ。おぬしら人間がいかに研鑽を積もうともそれに触れる事すら叶わん。逆にそれを叶えようとするのは古の外法にも通じる秘事じゃ。おいそれと話を広めるわけにはいかん……いかんのじゃが……」

そこで言葉をきると村長はシャーリーの顔を一瞥し、やれやれ、という顔をしながら続けた。

「ふーむ。どうもおぬしはギルドナイツには向いておらんようだの。聞いてはならんと言って聞き分ける顔ではないかよ。まったく。ビッケの姉だとでも言い出しそうな顔をしておるぞ」
「………」
「わしはそれもまた良いとは思うが…ギルドマネージャーもおることだしの…」

それまで黙って二人の聞いていたギルドマネージャーだが、村長とシャーリーの視線を受けると、ニコニコしながら口を開いた。

「あら〜?わたしはシャーリーちゃんがギルドなんとかだなんてお話はひとつも聞いてませんよ〜?」

とんだタヌキである。

「わたしは都合の良くないお話はみーんな忘れちゃうんですよ?それにほら。わたしもビッケちゃんが大好きですからビッケちゃんに都合の悪いお話もみんな忘れちゃうんです」
「やれやれだの…」

村長はため息をつくと、しばし逡巡した。
やがて顔を上げた村長は、先ほどとは打って変わったさっぱりとした表情をし、シャーリーに告げた。

「わかった。わしらはこれよりギルドの意向を離れる。じゃが事を表沙汰にはできん。あの娘を切り札として頼らねばならん事実も変わらん。ではあるが、ギルドの中には古の血脈を何やら兵器の様に扱おうとしておる者どももおる。何があろうとそのような者達がヴィクトリアに手出しするのは防がねばならん。シャーリーよ。これからわしの知っていることは皆話す。その後、おぬしには樹海に向ってもらいたい」   atention.gif
「わ…わかりました」
「ギルドマネージャーにはギルド外の人脈を用いて人探しを行ってもらいたい。どうやらジゴロウ殿の残した『もう一枚の切り札』が鍵を握りそうじゃ。かの伝承者の最後の弟子を捜し出して欲しい。そやつは『トレミアの鏡』じゃ…確か名は…」
「リオ。リオ・ホワイトロック君かしら?」

何の気も無さげなギルドマネージャーの一言に、急に村長は顔をこわばらせ、詰問する。

「なぜその名を知っておる。ギルドは何か掴んでおるのか」

ギルドマネージャーはあわてて両手を顔の前でぱたぱたさせると続けた。

「いえいえいいええ。知るも知らないもビッケちゃんがついこの間探して欲しいと言ってきた子の名前なんですよ〜。本当にその子なんですか?」
「なんじゃと?あやつは…両親からなんぞ聞いておるのか…」
「違うみたいですよ?なんだか…以前回復薬の効能について教えてもらったんだとか…むしろお母様に知らないか問い合わせるんだとか言ってましたし」
「なんと…すでに接触しておったか。引き合っておるのか…」
「あ、あの…」

話について行けてないシャーリーが口を挟んだ。

「おお、すまんの。ふむ。ではその辺りも含めて順を追って話そうかよ…。シャーリーよ、おぬし『龍化』という言葉を耳にしたことがあるか?」

早い山間の夕暮れが迫り、薄暗い帳の降りる中、ここポッケ村の集会場では長い長い村長の話が続いていった。

無論十分な警戒はしていたはずである。この樹海には何かがいるのだ。
樹海調査の3クール目。すでに調査に関してはまとまった成果が出せている。   atention.gifあわてることは何もなく、エリア間の移動も細心の注意を怠らなかった。日が西へ傾き、そろそろキャンプへ戻ろうか、と思う夕刻にあっても決して気を抜いたりはしなかった。

午前中にはそれが杞憂でないことをまざまざと告げるケルビの死骸を発見することにもなった。胴体の中央部分のみがまっすぐ潰されている。少なくともビッケはこのような状態になってしまったものは見たことがなかった。まるで丸太かなにかで叩き潰されたかの様だ。一体モンスターのどの部位がどう攻撃するとこうなるのか見当もつかない。   atention.gif

本当にビッケもファーも臆病なほどに警戒して進んでいたのである。

しかしそれでもこの樹海の主には足りなかった。

背後に出現したのであろう気配に気づく間もなくファーがはじき飛ばされ、かろうじて膨らませた体毛でまるくなりながら宙を舞っていく様が視界に映る。

ビッケの体の芯で、何かが音を上げて外れた。

いきなり黒い影が現れ、ファーが薙ぎ払われた。
その宙を舞う姿がとてつもなくスローモーションにビッケの目に映っている。ビッケはモンスターの出現に驚きながらも即座に反撃体勢に入ろうと意識する。が、気がつくとその両手にはすでに双剣インセクトロードが握られていた。視界が赤く染まり、その「影」だけがいやにはっきりと見える。

ファーは…ファーに逃げる様に言わないと…と思うもののその声が発せられることはなく、自分の体が勝手にその影に斬り掛かっていくのを眺める。ビッケの意識はもやは自身の肉体からパージされてしまっていた。
樹海の影が凝り固まったかの様なそのモンスターの一部が盛り上がり、ムチの様にしなりながら彼女を薙ぎ払いに来る。
初めて見るその背筋の凍る様なスピードをもつ攻撃にも「そのビッケ」は逡巡することなく突っ込み、あっさりとかわすとともに攻撃後のその影の隙に斬り込んでいく。
自分の口元に強い笑みが張り付いており、その口から「遅いっ」という台詞が鋭く放たれるのを聞いて彼女は耳を疑った。

それがビッケのまともな最後の記憶だった。

あたかも迫る夕闇の生み出したかの様な二つの影が斬り結ぶ。
そこにいるのはもはやモンスターとハンターではなかった。

ファーは混乱していた。
恐ろしい一撃をなんとかしのいだものの、立ち上がった後その目に映った光景はその現実を疑うに十分魔的なものだった。普段慎重すぎるほどに被弾を避ける立ち回りをするビッケが、あたかも命の削り合いに歓喜しているかの様な表情で斬り掛かっていっている。

「旦那さんっ!ムチャだニャっ!いったん引くニャ!」

と大声で呼びかけるものの何の反応もない。

あれは旦那さんじゃない…。

そう思うしかない。

すでに数回の斬り結びでビッケのクック防具は数カ所がはじけ飛び、出血もしているようだ。   atention.gifだが、まったくそんなことにはかまわず、彼女は間も空けずに斬り込んでいく。大体双方の動きが尋常ではない。いつしかその目を赤く光らせているその影と、ビッケの赤く光る目が夕闇の中で交錯していた。あまりにも禍々しいスピードの応酬である。   atention.gif

ファーは必死で回復笛を吹き鳴らしつづけていたが、そんなことでいくらも保つはずもなかった。

(ダメだニャ!旦那さんそれはいかんのニャ!)

と、焦るファーの脳裏に、とても良く知る「感じが」近づいて来る感覚がひらめく。湖の方だ。

(シャーリーだっ!)

ファーは走った。

ビッケの調査区域へ続く湖のほとりを走るシャーリーの頭には次から次へと悪い予感ばかりが浮かんでは消えた。

ギルドの正式なバックアップがない上、表向きこの行為が知られてはならないと来たら自力で該当ポイントまで行きつくよりない。村長との談判がついて即座にメタペタットに飛んだシャーリーだが、そこからの道行きは完全に隠密の単独行となっていた。それそのものは良い。ギルドナイツである彼女としてはお手の物である。   atention.gif

しかし、メタペタットのウォルフにより手配された伝令と落ち合い、ここ数日のビッケの様子が伝えられるとシャーリーの眉は曇るよりなかった。

2クール目の調査から戻ったビッケの様子が少しおかしかったという。その報告には飛竜クラスの未知のモンスターの存在が記載されていたそうだ。

そしてビッケは今日3クール目の調査に入っているはずである。

様子がおかしい、という以上はすでにビッケに何らかの横溢の影響があったと見るのが妥当だ。そのような状況で未知のモンスターの急襲を受けたら…。   atention.gif

「くそっ!」

気ばかりが焦る。

先ほどから例の巨木は木々の間に見え隠れしていた。しかし、いっこうに近づいていかない気がする。

ビッケの龍化が始まっていたら…。
それを引き起こす強力なモンスターに対峙していたら…。
その時ビッケがその龍化を使いこなせなかったら…。

答えのない問ばかりが頭をめぐる。

ふと、前方に小さな白い影が飛び出した。こっちへ近づいて来る。
シャーリーはとっさに携行したレインバレッツを構え、意識を集中する。しかし、すぐにその銃口は下ろされた。

それは彼女も良く知るアイルー。ファーの姿だった。

逢魔ガ刻

「キイィィィン!」

モンスターの持つ前脚にそって発達している(あるいは退化した)翼状のブレードとビッケの双剣・インセクトロードが切り結び、樹海にその剣戟がこだましている。

間髪を入れずモンスターの尻尾が側面から振り込まれ、ビッケを薙ぎ払おうとした。が、彼女はまったく怯むことなくモンスターへと距離を詰め、大きく両脚を割ると、一気に体を落としてその尻尾を頭上にやり過ごす。胸が地面に触れるほどに落とされた上体を浮き上がらせつつ、ビッケの右の剣が左腰から斜に切り上げられた。モンスターがとっさに上体を反らし、その剣を紙一重でかわす。しかし、その初撃は囮だ。間を置かずビッケの左剣がわずかに深く右剣のコースをなぞって切り上げられる。

入った。深手とはいわないまでもその左剣はモンスターの左頬を捉える。それでもビッケの連撃は止まらない。自分の背後へ振り抜かれた双剣が今度はムチの様に翻され、左、右の順に上方から袈裟に振り下ろされる。先の一撃で少し怯んでいたモンスターはこれをかわすことができずに、左前脚で頭部をかばいにはいった。ビッケの連撃がそこを斬りつける。ギィンと鈍い音を立て、片方の剣は硬部にガードされたようだが、もう一方は入ったようだ。   atention.gif

連続で手傷を負わされたモンスターは、だが退かなかった。むしろさらに速さと強度を上げた右からのブレードでビッケに斬りつけてくる。彼女は両の双剣を体の前面に十文字に交差させるとそれを受け、そのまま大きく吹き飛ばされた。いや、自分から跳んだのだ。全力で斬り込んだ寸後に強力なモンスターの一撃を無効化するほどの後方への跳躍を行うなど、人の反応・動きではない。   atention.gif

(まだだ…まだ…)

彼女は顔に強い笑みを貼り付かせたまま、即座にその距離を詰めにかかる。モンスターが奇妙な形に尻尾を振り上げ、二、三度頭上でその先端を振り回すとその尻尾を振り切り、あろう事かそこから自分の鱗片を飛ばしてきた。しかしビッケは怯まない。見切っているのか、無謀なのか、襲い来る鱗片の数々へとむき出しの頭部も庇わずに突っ込んでゆく。いくつかの鱗片が防具にヒットし、その部分のプレートを吹き飛ばした。

「せえぇぇいっ!」

裂帛の気合いとともにさらに斬り込んでいく。モンスターが短く咆哮し応える。夕闇の切り合いはいつ果てるともなく続いていった。

「旦那さんが!旦那さんが帰ってこなくなっちゃうニャ!シャーリー!どうしたら…」
「落ち着け。ファー」

悪い目が出た。シャーリーは血の気が引く思いだったが、すぐに気をとり直す。

「すぐそこへ向う。ファー、案内を」
「分かったニャ!」

アイルーの言葉から実情を汲むには長年の付き合いがないと難しい。シャーリーにはファーの話から現状の詳細は窺い難い。恐慌をきたしている今はなおさらだ。とにかく「そこ」へ行って己が目で見て判断するよりなかった。

「あの岩をよじ上った向こうだニャ!」

湖岸の湿地状のエリアを走り抜けると、ファーはそう告げた。幸い距離的にはさほど離れてはいなかった。間に合ってくれよ、とシャーリーは祈る思いで、ひとつの大岩を乗り越え、その先の開けたエリアへ走った。やがてその目にはビッケとモンスターの動きが映り、その剣戟が聞こえてきたのだった、が…。

(なんだ、こりゃあ…)

その影の様なモンスターとビッケとの戦闘は続いていた。それは尋常のハンターの立ち回りではない。夕闇の凝り固まった黒い二つの颶風だ。ビッケが身につけたクック防具はもはや原形を成していない。多くの装甲は剥がれ、防具としての役割を果たしていないのは明白だった。

大体すでに手にしている双剣が武器として意味をなしていない。裂帛の気合いとともに斬り込まれるその太刀筋はモンスターに当たって火花を散らしている。切れ味が消耗し切っているのに無理矢理斬りつけているに過ぎない。

しかし、彼女はそんなことにはまったくかまった風がない。通常の思考から切れてしまっていることは明らかだった。

「ビッケ!ヴィクトリア!」

大声で呼びかけるもののまったく反応がない。が、モンスターまでこちらにまったく反応しないとはどういうことだ。

(「ものの有り様の、位相が異なるのよ…」)

村長の言葉が思い出されぞっとする。でもシャーリーは必死にその不吉な思いを振り払うとスコープ越しに撃ち込むチャンスを狙った。

(だめか…)

あまりにもモンスターとビッケの動きが激しく、かつ密着しているために、モンスターに弾丸を撃ち込むことができない。

(とにかくこちらに注意を引かないと)

シャーリーはレインバレッツの通常弾の弾倉を外すと、徹甲榴弾を装填した。スコープでビッケとモンスターの動きを追いつつ、その行く先にある立木に向って撃ち込み、即座に今度は麻酔弾の弾倉へ換装する。撃ち出された徹甲榴弾はその木に着弾し、樹皮内にめり込んだ弾頭が時間差で炸裂する。そして独特の高音を発しつつ、それは四散した。   atention.gif

モンスターの方が激しい反応を見せ、ビッケから跳び下がる。

(チャンス)

距離をとったモンスターへ人外の反応を見せ即座に距離を詰めようとするビッケに先んじて、シャーリーは麻酔弾を二連射した。細かな狙いを付けている余裕はなかったが確実にモンスターを捉えたはずである。

果たしてモンスターが大きく動揺を見せ、首を左右に振るとさらに大きく跳び退き、さらに上方へ跳躍すると樹海の木々の中に姿を消していく。エリアチェンジに向うようだ。

そして、その影を追おうとするビッケの背中にはファーがしがみついていた。

「旦那さんもういいのニャ!あいつは逃げたニャ!もう戦わなくていいのニャ!」

ビッケの動きが止まり、その顔に迷いが浮かんでいる。ファーが分からないのか、去り行くモンスターの影と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらしがみつくファーを見比べている。やがて、彼女の目の色から禍々しい赤光が消え、ビッケは手にした双剣をだらんと下ろした。

シャーリーはどうしたら良いか分からなかったが、とりあえずビッケの手から武器を離そうと手を伸ばした。彼女の腕に手をかけ、堅く握りしめられているその手をほぐそうとする。が、そこでシャーリーはぎょっとする。

並のハンターであればとっくに戦闘不能になっていておかしくないケガをビッケは受けていた。防具はあちこちのプレートを吹き飛ばされ、その下はどこも血まみれだ。が、驚くべきことに、そのケガそのものからの出血はもう止まっている様なのだ。さらに、いくつかの傷口は「治り始めて」いた。でも、それよりも衝撃だったのはその彼女の口から漏れた声だった。

「シャー…リー…さん?」

か細い、幼子の様なビッケの声にシャーリーは動揺した。そして、手に取った彼女の腕が震え始め…その震えがどんどん大きくなっていくのを感じる。やがてビッケは双剣を落とすとがくんと膝をつき、自分の体を抱きかかえる様にがたがたと震えつづけた。

「わ、わたし…わたしは…」

瘧の様に震えるビッケを、シャーリーは抱きしめていた。
他にどうしろというのだ。

「わたしは…何を…あのモンスター…」
「いいんだっ!ヴィクトリア。もういい。もう大丈夫…大丈夫だから」

(ちくしょう…)

何がちくしょうだか分からなかったがシャーリーはそう思い、いつしか自分が涙を流していることに気づいた。
ビッケはシャーリーの腕の中で震えつづけている。シャーリーはそれを強く抱きしめ続けるしかなかった。そうしていなければビッケがバラバラになってしまう、そう思ったのだ。

暗さを増す樹海の夜を迎える中、小さな二つの影は、いつまでもそうして抱き合っていた。   atention.gif

『フロンティアハンター』了
LinkIcon『ロルフ村調査員の回想』へ続く

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諸注意

・トレミアの血脈以外…   back.gif
このお話では「人間」は基本的に黒龍と戦うことすらできません。どれほど強いハンターでもです。戦闘力の問題ではなく、そもそも影響を及ぼすことができないのです。史上唯一「普通の人間」として黒龍に影響を及ぼすことができたのがジゴロウでした。しかしこれも(単体戦力としてはカエラ以上でしたが)討伐には至りませんでした。

・無論誰一人として…   back.gif
いえ、います。たくさん。以降のやり取りもそうですが、ギルドは一枚岩ではありません。当たり前に急進派もいれば穏健派もいる。「かつて行われた外法」を今の世でもう一度やろうという人達もいます。そのような一派からするとビッケなんかは実験体に他なりませんね。だから彼女はずっと奥地のポッケ村で育てられてきたのです。

・四門の血脈   back.gif
詳しくは後続のお話を待ちましょう(笑)。
トレミアの血脈は
〜大地の龍脈より命を受け御神体の北門へ注ぐ者也〜
です。

・我々が事を急いている…   back.gif
ビッケは「その任」にあたる者として育てられていません。その方法は前代カエラの時点で起こったロルフ村の『竜の横溢』の際に失伝してしまっているのです。カエラ自身はきわめて過酷な初期条件を生き延びてそれを自然と身に付けてしまいましたが、ビッケにはそれがないのです。

・先が読めん   back.gif
黒龍の降臨は数百年のスパンをもって顕現する現象です。ビッケが「その任」のために育てられなかったのも、失伝した古伝の復旧が急がれなかったのも「次は数百年後」という思い込みがあったからです。具体的な手を残したのは唯一ジゴロウだけでした。

・事を表沙汰にはできん   back.gif
表向き従っている振りをしないと、急進派が大喜びで仕掛けてきちゃいます。

・樹海調査の3クール目   back.gif
ビッケは2日で1クールの調査を間に1日お休みを挟みつつ3クール履行する方針でこの調査を行っています。

・どの部位がどう攻撃すると…   back.gif
ナルガの尻尾ビッターンです。あれは戦闘用というよりもナルガがケルビなんかを仕留めるために身につけた技、という感じがして良いですね。

・クック防具は数カ所がはじけ飛び   back.gif
防具・鎧というのは「壊れる」事で中身を守るところにその真骨頂があります。むやみに何でも耐える作りにしちゃうとかえって中に衝撃を伝えちゃうんですね。ですんで実際のハンターの防具も「壊れる」でしょう。

・目を赤く光らせている…   back.gif
ナルガ自体が竜の横溢の影響下に発生したモンスターである、という作中設定です。あれだけ爬虫類ぽさから離れて色々な類の特性を兼ねちゃっているのはそのせい、ということなんです。

・ギルドナイツである彼女   back.gif
ギルドナイツというとあのゾロでマントなイメージですが、実際には現代の特殊部隊の役割を果たす部門であると考えています。ラープに類する単独長距離行軍なんかで、周辺の村落に知られることなくポイントへ潜入するなんてのは基礎の基礎です。

・そのような状況で未知の…   back.gif
村長さん達はそれを想定してなかったの?ということですが、想定してないどころかギルドからの討伐指示の矢の催促からビッケを休ませるための一手がこの調査だったのです。見積もりが甘かったわけですが、龍殺しを発現させた人間が適切な訓練過程を経ていない、ということ自体が史上初なのです(かーちゃんの例を除いて)。

・双剣   back.gif
双剣の動きというのは中国剣術のそれに近いですね。あんまり詳しくないんですが、カピコンさんの格闘ゲームに元ネタがあったりするのかしら。ゲームですんで少林系の動き(映画とか)に似せて作ってるのでしょうが、中の人の知っている中では八極拳士が兼修することで有名な劈掛掌(拳法)に剣持たせたらこうなんじゃねー?という感じに見えます。

・十文字に交差させると…   back.gif
双剣や二刀剣術に良くあるクロスガードですが、あれは実際は人間相手であっても難しい技術です。基本的には動きの起こりを捉えてトップスピードに乗る前に止めるか、体捌きで動きを殺して受ける、受け流すかのいずれかです。どちらも強大なモンスターの前では何の意味もないでしょう。

・徹甲榴弾   back.gif
徹甲榴弾というのは本来堅い弾頭で装甲を突き破り、内部で爆発をさせる弾ですね。モンスター相手にも大変強力なダメージソースになりそうな仕組みなんですが、なんであんなに威力が低いのかしら。扱える数を抑えて肉質無死で…拡散弾と被るか。

・ビッケどーなっちゃうの?   back.gif
どーなっちゃうんでしょ(笑)。

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