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調律A・調律B

a side story ビッケ篇

調律A

この世界の各地には『生命の樹』の伝承が伝えられている。

それは日常われわれが目にする樹木とは異なり、あるいは発光し、あるいはその形を変え、あるいはその天辺を仰ぐ事もできない巨木であるとも言われる、きわめて幻想的な表現で伝えられるものである。

その存在のもたらす周囲への影響も対極の振幅を持ち、あるいは生命力の根源であり、それに触れれば不老長寿をも可能とすると伝わり、あるいは有名な霊樹ヒヨスの伝承の様に触れた生物の生命をたちどころに奪う、とされるものもある。

この矛盾に関しては故ジョン・アーサー卿の研究に次の様にある。

「仮に生命力そのものに影響を与える何らかの奔流の様なものがあるとして、それを薬に例えてみるとする。薄めて服す事により良好な効能が得られる薬も、その原液は毒にも等しい、という事は良くあろう。しかして、この生命力の奔流が似た様な仕組みを持つものだとするならば、その奔流の濃厚なる所にあっては生命は死滅し、その希薄なる外縁にあっては生命は強壮となる、という事になろう」

「この仮定は『生命の樹』の伝承にある矛盾を良く解きほぐす様に思われる。生命の樹がなにがしかの生命力の奔流の源泉を目にした記憶であるとして、その影響に対極の構図がある事は説明できる。そこでわたしは思うのだ。この生命の樹こそ『竜の横溢』の中心をかいま見た記憶なのではないかと」

驚くべき事に、さらに卿は欄外に「繰り返される横溢の中心にある巨木?人為的な横溢の発生と古塔?」と記している。

整理しよう。

・世界には生命力に直結するなにがしかの力の流れがある。
・それは条件が重なると「横溢」する(竜の横溢)。
・その中心へのイメージが生命の樹の伝承である。
・横溢は濃なる所にあっては生命の脅威となり、
 薄なる所にあっては生命に強壮を与える。

続いて欄外の付記に関してであるが、つい先だって、メタペタット・ロルフの竜の横溢の中心と目される樹海地域に天をつく巨木がそびえるとの報告が成された。これは偶然の一致とは思えない。常識では存在し得ない巨木は竜の横溢の繰り返された結果とは考えられまいか。さらには、巨大化したその巨木がさらなる横溢を誘発する存在となっている可能性もある。

これが本当ならば、古塔の記述に繋がる。太古にあって、この巨木と横溢の関係を解いたなにがしかが、人為的に横溢を発生させる装置として古塔を築いた。古塔とは巨木を模した人工的な生命の樹の発生装置なのである。少なくとも卿はそう考えたのではなかろうか。卿は最後にこう綴る。

「私はこの横溢への疑問を龍人を名乗る太古の流れを汲む竜人族の長のひとりに問い質した事がある。生命の樹がその横溢の中心であるという目算は概ね的を射ているようだった。しかし、それ以上を問おうとする私に示された指針は『それ以上踏み込んではならぬ』というものであった」

「私はこれにより、この筋は過去すでに龍人達によって辿られた道筋である事を確信するのである。示された指針が禁忌への警告であっても私は知りたい。その中心に何があるのかを」

これを境に卿の行方は途絶える事となる。卿は踏み込んだのであろう。おそらくは古塔という禁忌に。

私もここにその秘密の中心がある様に思う。では、以降この古塔について知られている事を検証しつつ、さらに横溢の本質へ考察を進めていこうと思う。

ジョン・S・アーサーの手記より

調律B


………そう、であったか………。

…非礼を詫びよう。人の子よ。
いや、北門の鏡よ。北門の娘を守護する者よ。

我ら龍人が生み出し得なかった四門の鏡。
おのしがココットのあの男を継ぐ者なれば、確かにそれは可能であろう。

ならば我らは伝えよう。
我ら龍人が何を見つけ、何を望み、何を見失ったのか。

そのトレミアの娘が最後の四門の末となる様に。

我らは伝えよう。

おのしらが人の新しい未来の希望となる様に。

北門の鏡よ。
秘密の鍵とは龍化というものの本体のことである。

おのしらの言う竜の横溢。その源泉において生命は成立するや否や。

それはおおむね否である。

横溢のもとである「流」の奔流は生命の源そのものの噴出である。そこに直接触れて生命はその個を維持すること能わず。個は解体され、流そのものへ帰るより道はない。

横溢により強大化する竜どもものこともまた「龍化」と言う。が、これはその横溢の外縁に触れ影響を受けたに過ぎぬ。

しかしこれは真の龍化ではない。

何事によらず膨大な繰り返し、膨大な時間の中には例外が発生するものである。

そうじゃ。その横溢の源泉に触れてなお生き延びる個体。それが真に龍化と言われる現象を表す。

それは固体の強度によるのかもしれん。あるいは「流」への耐性の偏向があるのかもしれん。その両方かもしれん。いずれにせよ、長い時間の中、そういった固体は確かに存在した。

それがおのしらが金獅子と呼ぶもの、あるいはキリンと呼ぶものの正体である。

奴らが元何であったのか、それは我らにも分からぬ。しかし、牙持つもののなにがしかがその源泉を生き延び金獅子となり、蹄持つもののなにがしかが同様にキリンとなった。

そして、良いか北門の鏡よ。
我ら龍人の祖とは、かつて己の身にその発現を求めた者のことなのである。

我らは、彼らは、太古においてはおのしらと何ら変わらぬ人であった。

人が自らの龍化を求めたのである。

その法は今に伝わっておらぬ。どれほどの犠牲の上に成り立っておるのか見当もつかん。だが、北門の鏡よ。我らの祖はその源泉下にあって生き延びる法を求めた。そして、その外法は成功し、龍人が生まれた。

我らも、おのしらが竜人族と呼ぶ者達もすべてこの太古の外法により生まれた一族の末裔である。

驚いておるのか北門の鏡よ。

それは我らの名の通りのことである。我らは竜の横溢の生み出した人であるが故に竜人族と呼ばれ、龍化の生み出した人であるが故に龍人と称している。

しかしこれは、これだけであるならば罪ではなかった。我らは我らの祖の成した業を負う者、ただそれだけのことであったのである。

だが、ある時、ある場所でその歩みを踏み外してしまった者達がおった。それは黒龍の顕現下にあって、人が、龍人が滅亡の恐怖にさらされておる時であったとも言う。

そこで、その時点までは伝わっておった外法が解放されたのじゃ。いや、人と龍人は黒龍の恐怖に負け、その外法を一歩先へ進めてしまった。

彼らは思うがままに流の横溢を引き出し、それを制御して人の身を人の身であるままに龍化する法を編み出してしまったのである。位相の異なる「龍」へ干渉できる「龍殺し」を持つ人を生み出してしまったのである。

北門の鏡よ。

その時その外法の行われた地こそが「古塔」である。
その法で生み出された四人の人間が四門の祖である。

おのしが守護せんと望むトレミアの娘の祖、四門の祖はそこで生まれた。いや、生み出された。

北門の鏡よ。北門の娘を守護する者よ。

それはその時必要な力であった。
我らが生き延びるための数少ない選択肢であった。

そうではあったのかもしれん。
が、おのしが四門の鏡として今ここに立っている以上、やはりそれは外法であったのであろう。
おのしらはおのしらの歴史を今踏み出すときなのであろう。

後は彼の古塔へ赴いてその目で確かめるが良い。
我らはすべての秘密をその地へ置いてきた。

北門の鏡よ。
いや、まだその歩みをはじめたばかりの若き人の子よ。

我らは今、その歴史の先端をおのしに託そう。
ドンドルマに赴き、そこの長に次の文言を伝えよ。
さすれば古塔への道は開かれるであろう。


四門より出ずる魂の子よ
彼方より去来し、この地を統べる王の魂よ

魂は魄に宿りて遍く世を巡り
過の時を刻む碑となり
未の時を産む礎となった

今我は古の盟約によりその魂を継ぐ者となる

その偉翼を休めんとする王よ
その偉躯を横たえんとする王の魂よ
いざ 安らかに流へと還らん
魄は大地に 魂は流に

流の末は龍のもとへ
白銀に輝く祖なるもののもとへ



龍人の隠れ里から外へと出たリオは、ぶるっと身を震わせた。

そこはまだ明け始めぬ夜の終わりの砂漠。
日の射す前の朝の始まりの砂漠。

彼は古塔のあると伝わる東の果てへ目をやる。

僕はそこで何を目にするのだろうか。
それは千の夜をこえてきたトレミアの血脈に何をもたらすのだろうか。

カエ姉と、そしてあの娘の顔に本当の笑顔が戻るのだろうか。

リオは少しうつむきながら白みはじめた砂漠を東へと進む。
足跡が細かな砂粒に柔らかく刻まれ、連なっていく。

四門の祖の生まれた地。太古の外法の眠る禁忌の地。
ジゴ爺が僕に託したもの。世界があの娘に託したもの。

古塔へ。

彼は決然と顔を上げ、再度彼方の空へ目をやった。

行こう。古塔へ。
光の射す方へ。

『調律A・調律B』了
"a side story" ビッケ篇 第一部完
『第二部・プロローグ』へ続く

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諸注意

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