HUNTER's LOG on PORTABLE

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ロルフ村調査員の回想

a side story ビッケ篇

ロルフ村跡31年前

樹木の織りなす陰は濃く、その木々の吐き出す大気は湿り気を帯びて厚い。濃密な生命の気配、というならばそれは他に比類のないくらい濃密であったが、漠然と抱いていた印象と比べるならば「拍子抜け」と言えなくもないくらい静かな道行きだった。先頃からぽつりぽつりと降り出した雨がわずかにその静寂を乱している。

(でも…)

と、ノレッジ・フォールは思う。

(この先に起こった惨劇は現実だ)

それを思うと気が重くなる。
むろん「それ」が起こったのはもう5年も前だ。調査も今回が初めてではない。村に踏み入った途端モンスター達に喰い荒らされた村人の亡骸を目にしなければならない、というわけでもない。

モンスターの暴走に関してもすでに終息しているとの見解が出されているし、横溢特有の強個体が出現しても彼女の後ろに控える屈強なギルドナイツの面々の手に余るというものでもないだろう。

彼女の任務はただ一つ。村の跡をくまなく調べ、大昔からこの村に継承されてきたはずの神器を探し出すことだった。

(しかし…)

神器の探索は初期の調査段階から中心となっている眼目だった。特に数年前から古の都シュレイドに不穏な兆候が見られるといった事情もあり、ここ数回の調査は特に力を入れて行われたはずだ。
前回などはノレッジの先輩に当たるハリーが担当していたのだ。ハリーは書士隊の中でも変わり種で、トレジャーハンターという出自を持ち、モンスターより各地の民俗風土に通じていた男である。在りし日のこの村にも幾度となく足を踏み入れており、調査員としては自分などよりはずっと適任であったはずだ。

(今更わたしに何を見つけろというのか…)

彼女はそこに合点がいってなかった。
今では「見習い」の肩書きも外れて一人前の書士隊員となっているノレッジだったが、ハリーの様な特技を持つわけでもない。
彼女の上司はこう言った。

「お前は勘が良いからだ」

それなりの苦労を積んで書士隊の正隊員になったつもりのノレッジだったが、抜擢の理由が「勘」である。彼女の胸中は少し複雑だった。が、それはそれ…と思考を切り替える。

(全滅は免れていない…が、神器がない)

これまでの調査によって、村人の存命は絶望視されていた。周辺地域に知られていたこの村の大人衆に関しては亡骸との同定がほぼ完了したと聞かされていた。その状況で子供や年寄りが生き残ることは考えがたい。…というよりも村はずれにある洞窟で大量の遺体が発見されている。おそらく非戦闘員は皆そこに避難し、最期を迎えたのだろう。

(最後の血脈が失われたわけだ)

と、ノレッジは思う。

四門の血脈のうち、南門と東門の流れについてはその失伝が記録されており、当該の神器は西シュレイド王家の保管するところとなっている。西門の流に関しては当初よりその記録がほとんどない、今なお謎の一流である。

ギルドと王立古生物書士隊の把握する限りで最後の一流であったトレミアの血脈を伝えていたロルフ村こそが、彼女が今向かう竜の横溢により壊滅した村だ。

せめて神器だけでも確保し、突破口とせねばならない。伝説の黒龍の降臨の予兆を前にした人々の、それは切迫した心境でもあった。

雨脚が激しくなってきた。スコールになるのだろうか。ノレッジは荷物からフード付きのコートを引っ張り出し、身にまとった。フードを目深に引き下ろすと湿密林の奥へ目をやる。スコールにうたれ、世界は次第にその色を失っていっていった。
空に目をやると、そこも一面の曇天。灰色の世界が広がっていた。

ロルフ村36年前

この前、十歳の誕生日があった。

村の皆が総出で祝ってくれた。

誕生日の前に成功したドスランポスの狩りを皆がほめてくれて鼻が高かった。

「父さんだってお前の歳にドスランポスは狩ってなかったぞ」

と、父さんも言っていた。

リルム姉ぇとウォレントは何回も何回もその狩りの様子を聞きたがった。

秋のお祭りの時の催しを真似て、いつも陽気な工房のカルルおじがドスランポスの役をやって、あたしが木の剣で討伐の真似をした。

ずいぶん太っちょのドスランポスだとみんな笑った。

とっても楽しかった。

でも。

何日か前から、竜達が溢れ出して、

遂に今日は飛竜が村へ乗り込んできた。

大丈夫。母さんは強い。父さんはとても強い。

村の大人達はとっても強いハンター達だ。

だから。

あたし達子供は北の丘の洞窟に隠れている様に言われた。

あそこは特別な場所。

この村を導いた神様の祀られている場所。

モンスター達はあそこには近寄らない。


洞窟の入り口が見えてきたところで、ふと足が止まる。

嫌な感じがした。

腰のハンターカリンガを引抜くと、そこから大声で呼びかけた。

ルーネ婆を呼んだ。

リルム姉ぇを呼んだ。

ウォレントを呼んだ。

返事がない。誰も出てこない。

ううん。大丈夫。と、言い聞かせる。

きっとみんな村の大人達の無事を一生懸命お祈りしているんだ。

だから聞こえないんだ。

大丈夫。だいじょうぶ…。

洞窟の入り口で何かが動いた。

ドスランポスだった。

あれ?なんでモンスターがいるんだろう。

そうだ。きっと迷い込んでウォレントに追い払われて出てきたんだ。

でも。

ドスランポスの後ろからはランポス達が出てきて。

なんだかドスランポスのくちばしは赤く濡れていて。



早く、あのドスランポスを狩ってしまおう。


そういえばウォレントがドスランポスの爪が欲しいと言っていた。

それであのきれいな片手剣を作ってもらえるんだと言っていた。

ウォレントは何をしているんだろう。そうだ。ウォレントの剣ができたらリルム姉ぇもさそって釣りカエルの洞窟に行ってみよう。はやくあのドスランポスをかってしまわないと。うぉれんとのけんにはどすらんぽすのつめがいるんだ。なんでうぉれんとはでてこないんだろう。つりかえるのどうくつにいったらきっとりるむねぇのだいすきなめずらしいくさばながたくさんあるおとなたちはまだあたしたちだけじゃいっちゃだめっていっていたけどあのどすらんぽすをからなきゃそうすれば…

そうすれば、きっと…

ドスランポスの顔がニイと笑った様に見えた。

カエラの視界が赤く染まる。

体の芯で何かが外れる音がした。

ヴェルド29年前

評議会で行われた一連の公聴会から戻り、王立学術院の長い廊下を歩きながらノレッジ・フォールは少し苛立っていた。

評議会は軍の意向を汲んで、黒龍撃退の一件の詳細を非公開として取り扱うことを表明した。馬鹿な話である。あのココットの英雄は知る人ぞ知るということになるだろう。

この一件、軍隊はなにもできなかった。シュレイドに大規模な兵団を送り込んだものの、彼らは全く動くことができなかった。黒龍に手を出すもなにも、多くの兵がその城下にある時点で精神に変調をきたしてしまったという。はじめからそういう「場所」だと念を押してきたのに、一笑に伏してきた挙げ句この有様である。

その果てに単身一命を賭してこれを治めてのけた稀代の英雄を「軍の顔に泥を塗った」と逆恨んでいるというのであるからあきれた話である。あのココットの双剣使いは黒龍に受けた傷ではなく、自らが自らの体に与えた過負荷故にひと月に渡って生死の境をさまよったと聞く。それを誰に知られることもなく、としようというのだ。

(私が青臭いのか…)

ノレッジとしては立ち位置的には軍寄りと言えなくもない。同じ王立組織の一員ではあるのだ。だが、書士隊がハンターギルドと協調をとってその任を全うすることが多いのに対して、軍はいつまでもハンターたちを「ならず者の集団」と蔑み、見下そうとしている。彼らの力を借りていて、なおそうなのだ。

(昔からのこと、と言ったらそうなのだけれど…)

何を自分はこんなに苛立っているのか、と少し彼女は頭を冷やす。いや、何かが引っかかっているのだ。

(あの貴族…スヴェンジ卿とかいったかしら)

公聴会でその男がぶちあげた「対モンスター特化師団」の話を聞いてからどうも自分は苛立っているようだ、とノレッジは思う。

(何か引っかかる…)

そう思いながら自分の名前が刻された真鍮のプレートがはめ込まれた一枚の扉の前で足を止める。少し気を落ち着かせないといけない。これから今日の公聴会の模様をまとめなければならないのだ。

軽く深呼吸をすると、ノレッジは扉に手をかけた。

「あの…」

自分の研究室に戻ったノレッジはその扉を開けるなり少々うんざりとした。来客用のソファにはレザーライト防具一式を着込んだ一人の男が座っていて、ニコニコしながら彼女に手を振っている。ハンター達が着るようなモンスター素材の「防具」を身にまとって学術院の中をうろうろしている男などノレッジの知る限り一人しかいない。ハリーである。

「いよっ!ノレッジちゃん。こんちまたご機嫌…斜めかしら?あれ?」

調子の良さは年中無休というハリーだ。これでもう40男というのだから恐れ入る。

「ハリー先輩…あのですね、この部屋はあたしの上司はおろか王族の方であっても勝手に出入りしてはいけないことになっているはずなのですが?それと"ちゃん"はやめてくださいと以前から…」

と、すべてを聞くことなくハリーはガバと立ち上がり、ノレッジが見たこともないような真剣そうな顔を作るとツカツカと寄ってきた。そのままがっしりとノレッジの両肩をつかむ。

「あ、あの、先輩?」
「うむ。ノレッジ君、失礼の段は謝ろう。が、事は急を要する上に機密なのだ。壁に耳ありと言うではないか。君の言うように書士隊員の個室の機密保持は万全だ。だからここで君に会う必要があったのだ!」
「な、何かあったのですか?先輩は確かココットの方へ行ってらしたと聞いてますが」

この男。のべつまくなしに軽々と日々暮らしているが、トラブルの予兆をとらえる能力は本物である。ハリーが何かあると言ったら大概何かある。ノレッジは少し緊張した。…しかし、その緊張を見て取ったハリーのまなじりはぐいっと下がり…まただらしない口もとに戻って彼は言った。

「ノレッジちゃんは本当によい娘だねぇ」

ノレッジは自分の血圧が急上昇するのを感じる。この野郎。

「…先輩。先輩のお見立ての通りあたしは少々機嫌がよくありません。あたしをからかいにいらしたのでしたらまた今度の機会にお願いできますか?出口はあちらです」

まあまあ、と見ようによっては馬鹿にしてるかのように見えるひらひらと手を振るジェスチャーをしながらハリーはまたソファに戻った。まるで効いていない。

「うーんとね、キナくせーのは本当なのよ、これが」

そう言うと視線をノレッジに向ける。目が笑ってない。ハリーの「尻拭い」に関してはノレッジはスペシャリストである(全くありがたくない話だが)。これは本気だ。彼女は今度は真っ赤になった顔が急速に冷めるのを感じた。

「ノレッジちゃんさ、今日の公聴会でなんか変なのいなかった?なんつったっけな…スポンジとかなんかそんな感じの…」
「スヴェンジ卿のことですか?先輩、貴族委員の名前をそんな風に間違えたらまずいですよ」
「あー、それそれ。スベ何とか。そのおっさんがさ、どうもろくでもねーことを企んでるらしいのよ。なんて言ってた?」
「軍内にモンスターに対応する特化師団を作るんだとか何とか…」
「おう、それだ。どうもその内容がよ、《鉄騎》の二番煎じをやるつもりくれーのものらしいんだな。まいっちゃうよね」

どうやら話が長くなりそうなので自分のコートを脱いでお茶を煎れようと準備を始めていたノレッジの手が止まる。

「《鉄騎》?って、あの《鉄騎》傭兵団ですか?馬鹿な。竜操術を可能とするとでも言うのですか」
「あー、いや。それはねえ。俺らの知らんものをあのおっさんが知るわきゃねえ。竜操術はねえよ。でもよ、ただ兵隊集めてモンスター討伐用の訓練を施すってんじゃすまねーみたいなのよ」
「でも、その程度のことはこれまでも立ち上がっては消え、立ち上がっては消えしてきましたよ。今度は何か違うところがあるのですか」

ノレッジは問いながら用意したティーカップをハリーと自分の前に置き、自分もソファに腰をおろした。

「違うね」

ハリーがそのカップの縁をピーンとつま弾いて続ける。

「頭数が尋常じゃない。この前の黒龍騒動でどういったわけか"面目が潰れた"と猛ってる連中の数がまず多い。それに元からいる反ハンターギルド派。加えて黒龍が撃退で幕となったことから再降臨に恐れおののく貴族連中。さらには"古の秘法"と銘うちゃ飛びつくオツムの足りない学閥連中。ここまで集まりゃ寄り合い所帯といっても下手すりゃ多数派だぜ。資金的にも権威的にも申し分ねえ訳よ」
「でも具体的には何を?餌になるものがなければその方達も寄りつかないでしょう」
「あるんだな、これが」

そうしてハリーは意味ありげにノレッジを見やった。ノレッジはとある少女の姿を思い浮かべてぞっとする。出てきた声は悲鳴の様になっていた。

「まさか…まさかカエラを…」
「…ご明察」

繋がった。それがノレッジの勘が嗅ぎ付けた苛立の正体だ。

「ノレッジちゃんが見つけてきたあの娘。カエラちゃんか?どうもその辺が餌らしい」
「四門の血脈を?どうするというのです」
「さあね。できそうもねえ事考えてんだろうからどうするつもりかはわかんねーよ。でもよ、あの連中の手に渡ったらろくでもねーことになるのは間違いねえ」
「だめだめ、だめです!あの娘は…カエラはここしばらくでようやく言葉を取り戻して、少しずつ笑ったりする様になってきたんです。それをそんな馬鹿な連中にあずけるなんて…先輩。何とかしてください」
「あー、いやオメー何とかって言ったってよ。軍人さんと貴族が組んだら鬼に金棒だぜこりゃ。今カエラちゃんはミナガルデのハンター養成学校とかにいんのか?ギルドっつったって黒龍の研究は俺らに丸投げだ。アカデミーの上の方が一人でも丸め込まれて打診に行ったら即受け渡されちまうぞ?」
「そんな…あたし何でもしますから。先輩は色々顔がきくじゃないですか。後生です、なんとか…。あ、あ…。そうだわ。じゃあ…じゃあ、あたしが先輩と結婚します!」
「……………はぁ?」

急に部屋の外にある庭園の噴水の音が大きくこだまし、上空を飛んでいるのであろうトンビの鳴き声がピーヨとひびいた。

「え?な…ノレッジさん?」
「前に先輩あたしをお嫁さんにしたいって言ったじゃないですか。なりますよ。どうせあたしなんかずっと先輩のおもちゃでからかわれて、後で尻拭いさせられる人生なんです。嫁のポジションの方が都合が良いわ」
「あの、何のお話をされてますか?」
「だからハリー!」
「は、はい」
「何とかしなさい」
「……………」

さて、そんな漫才の様な一幕がこの後数十年に渡るヴェルドを二分しての政争の幕開けとなろうとはこの二人も思ってはいなかった。
この後、この二人を中核とする「ギルド−書士隊派」によりカエラはココットへとその身を移され、以後ジゴロウのもとに拠ることになる。対する「貴族−国軍派」は独自にその強硬路線を突き進むが、その「対モンスター特化師団」は結局紅龍ミラバルカンの前になす術もなく崩壊し、最後は幻の英雄ジゴロウの弟子としてこれに挑んだカエラ・トレミアによって一旦の幕引きとなる。

その後もことあるごとに復活の狼煙をあげようと試みた「貴族−国軍派」だが、最終的には「ギルド−書士隊派」が王都におけるイニシアチブを確立し、政争そのものの幕引きとした。この象徴としてジョン・カエラ夫妻は王都に招かれたのである。

後年、ノレッジ・フォールは次の様に語った。

「わたしがカエラと密林の崩壊した村跡で出会った時のことは生涯忘れようもない強い印象を持つものです。あれは人の手がどうこうできるものではありません。また、あの娘のような存在を人の手が広めて良い様なものでもありません。それは、その後お会いしたジゴロウ殿の思いでもあり、事の発端となった四門の祖を開いた龍人の長老達の考えでもありました」

「わたしはあの日、あの密林で一人の少女と出会いました。それは軍部の方の考える様な"力"との出会いではなく、あるいは貴族の方の考える様な"安心"との出会いでもありませんでした。
それは、ひとことで言うならば"魔的"であったのです。今まではすがるしかなかったのかもしれない、あるいは今もすがるしかないのかもしれない。でも、いつまでもあの様な悲しい力にすがっているわけにはいきません。きっと"次のトレミアの娘"がその兆しを見せることになるでしょう……」

ロルフ村跡31年前

「ノレッジ殿」

降り続くスコールの中、もう半刻ほどでロルフ村の入り口に届こうかというところに来て、ノレッジの後ろに従ってきたギルドナイツの一人が耳打ちしてきた。

「少し様子がおかしい。どうも戦闘の行われている気配があります」
「…いえ、私は全くなにも感じれられませんが…」
「はい、この雨ですし、まだハンターでなければわからないくらい離れてはいます。が、この具合だと、どうもロルフ村の方角でして…」
「…どうしたら良いでしょうか」

ノレッジは頻繁に狩り場に足を踏み入れることのある書士隊の調査員ではあるが、このようなハンターの感覚などとは無縁である。ここは素直に任せるのがよい。

「斥候を出します。戻るまで残りはここで警戒しつつ、待機。ノレッジ殿は後方で私とともに」
「わかりました。お願いいたします」

すでに余計な荷を任せ、身を軽くした片手剣使いが一人待機しており、ノレッジについたハンターの目配せにうなづいている。

(モンスター同士の縄張り争いか…流れのハンターか…あるいは…)

しかし、そこでノレッジ以外のギルドナイツ達が一様に反射的な反応を見せた。密林の奥、ロルフ村の方を睨んでいる。

「どうかしましたか?何か問題でも…」
「…いえ、どうも…戦闘が終了した様です。かすかですが飛竜種の断末魔の声が…」

それを聞いたノレッジの頭に急にひらめくものがあった。

《この機会を逃してはいけない》

何の機会かも分からないまま、ノレッジはギルドナイツ達に進言した。

「急ぎましょう。わたしも走ります。もしかしたら…これまで見落としてきた何かに出会うチャンスかもしれません」
「…分かりました。しかしどのような事態が起こるか予測が立ちません。以降はわたしの指示に従っていただきたい」
「無論です。では、行きましょう」

普段あまり走ったりはしないノレッジはぬかるみに足をとられ、倒木に難儀をしながらもギルドナイツ達の助けを受けて最速を努めた。息が切れ、そろそろ脚が張ってきてしまった時、その村の門がスコールの向こうにぼんやりと姿を見せ、何かの終末を暗示する。

半壊している村の門を越え、かつての中央広場とおぼしき場所に走り込んで、ノレッジは足を止めた。いや、勝手に止まったのだ。ギルドナイツの面々も動きを止め、表情を失っている。

世界のすべてがスコールによってモノトーンの色調で織りなされている中、ただひとつノレッジ達の視界を刺激する血の赤。

広場の石畳にはおびただしい血が流れ、その上に1頭の雌火竜が伏していた。激戦が行われたことを物語るようにその体の節々は破壊され、しかし、なぜか安らかにも見えるような顔のままその身を横たえている。

しかし、ノレッジ達の足を止めたのはそちらではない。

絶命した雌火竜の傍ら、その血溜まりの中に一人の少女がたたずんでいた。

返り血で所々が深紅に染まった、もとは白であったろう肌着の様なものだけ身につけ、その少女はじっと目の前に横たわるその雌火竜を見つめている。おどろにのばされた白銀の髪がその細い体にまとわりつき、降りしきるスコールがその輪郭を曖昧にさせていた。

そして、その左手に握られているのは…間違いない。神器・黒龍剣だ。

ふと、その少女が目を上げ、ノレッジの視線をとらえた。
赤く、まがまがしい光を放つ双眸。

あれは…あれは、この世のものではない。

ここは…ここは、人の踏み込んで良い場所ではない。

現世と幽界の端境の様な中にあって、ノレッジは視界が次第に歪んでいく様な気がした。そんな中、突然その少女がスローモーションに、そして、糸の切れたマリオネットの様に崩れ落ちていく。

ノレッジには、少し、その少女が笑ったように見えた。

『ロルフ村調査員の回想』了
『調律A・調律B』へ続く

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諸注意

ノレッジ・フォール
王立古生物書士隊の調査員。いや、本当に。「大全2」ではオオナズチの頁を担当してます。なんかギャルな文章(笑)。ここではもうちっと成長して「見習いの外れた」頃合いとしてあります。鋭い観察眼を持つ(視力が良い)、とされてましたのを「勘が良い」とさせていただきました。

ハリー
こちらも本当。ノレッジのお隣におります(笑)。トレジャーハンターとしての経歴も本当。大全内では大変まじめにキリンについて述べておりますので、こちらのお話上の性格はここ独自のもの(でしょう)。姓不明ですが…後でえらいことになっております(笑)。

ロルフ村
ミナガルデ管轄の湿密林のひとつに所在します。メタペタットとは樹海地域を挟んで反対側に位置する、という想定。竜の横溢そのものはメタペ湿密林を襲ったものと同じ樹海からのものです。流れ出る方向であっち行ったりこっち行ったり被害地域が異なるのです。

神器
黒龍武器は東西南北の四方を象徴する4種の武器があったと考えられます。現在判明しているのは片手剣(黒龍剣・北)・ランス(黒龍槍・東)・ハンマー(ミラバスター・南)。それぞれ武器解説の所でそれを目にすることができます。

黒龍降臨の予兆
この調査の2年後にシュレイドにミラボレアスが姿を現します。

ココットの英雄
ジゴロウのことです。

この有様
イメージギャラリー「シュレイド」など参照。

自らの体に与えた…
鬼人化を丸二日にわたって解放しつづけました。

軍部
軍は存在します。クエスト依頼にも軍人さんからのものがちらほらありますね。ハンターを快く思っていない、というのは初期設定からの伝統です。

王族の方であっても
書士隊員の調査報告というのはいわばトップシークレットのかたまりです。

《鉄騎》傭兵団
太古にあって竜を従えたという竜操術の復活を試みた傭兵団。これはゲーム内で語られています。竜操術の痕跡をたずね歩いてついぞ行き着けなかった団長さんの用いたランスのレプリカがゲイボルグシリーズで、その武器解説で目にすることができます。

結婚
あんまり本筋と関係ないんですが(笑)、この世界の結婚について。
言うまでもなく全部勝手な設定です。この世界ではあまり父系か母系かというのはありません。その都度まわりの状況からして全体的に系統が残しやすい方の姓をとります。例えばノレッジに兄ちゃんがいて、それがすでに一家を成していて、ハリーが一人っ子だったらハリーの姓をとる。逆だったらフォール姓をとる。そんな感じ。この二人はハリーが係累不明の出自であったため、問答無用でフォール姓となっております。
あ、この二人本当に結婚してます(笑)。
ところでビッケのアーサー家の方ですが、これを「アーサー」としたのは四門の血脈の有効性に疑問を持ったカエラ達の意志によります。もう、これに頼らない方策を見つけにゃならん、という決意ですね。でも、娘が生まれた場合は龍殺しを発現する可能性を持つので「トレミア」をミドルネームでつけることにしました。ビッケのフルネームはヴィクトリア・T・アーサー。ヴィクトリア・トレミア・アーサーです。

政争
なんだかノレッジとハリーの漫才が延々続きましたが、本編の裏側ではこういったことがくすぶってます、ということで。当然ビッケの七転八倒の裏でもヴェルド−ミナガルデ−ドンドルマを通して瀕死の「貴族−国軍派」がまたぞろあーじゃこーじゃとやっております。でも、その辺りビッケタイムで書いてくと大変「面倒」のなのでそこは一挙割愛(笑)。今回の過去の事例で「こんな感じ」と思ってください。

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