HUNTER's LOG on PORTABLE

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フラジャイル・後編

初出:2008.07.12 HUNTER's "B" LOG

最終頁です。
少々全体が散漫になってますので、少しまとめましょう。

アンチテンション

モンスターハンターがゲームとして提供している「勝利条件」。この条件を満たすハンターが不在のうちにクエストがクリアされてしまうのはなぜか、というのが当初の疑問でした。

そして、これは逆に「勝利条件」そのものが後付けで、それ「以前」にはその条件にこだわらないモンスターハンターがあった、なおかつその「古層」は現行のモンスターハンターにも伏在している、という仮説に至ったのでした。

また、この「勝利条件」を満たすハンター像がそれ以外のハンターに投げかける「影」。その「影」を追うことでその仮想される「モンスターハンターの古層」へアプローチしよう、という目論見が立ち、その「影」を活かす方法としてアタッカーハーフに注目をしたのでした。

実際「肉質?なにそれ?」というハンターであってもアタッカーハーフが介入したら最難関でだって暴れちゃうことができるのでして、このことは「勝利条件」のベクトルから外れたままに自由に狩りを履行できる可能性があることを意味します。

さて、これがスポイルなのか自由さなのかというのはケースバイケースと言うよりないですが、忘れてはいけない点は弱点肉質に固執する、ノーダメージを実現する立ち回りを墨守する、というのは見ようによっては「プログラムルーチンの攻略」にしか見えない、ということです。「そんなのおもしろくな いっ!」というハンターがいるのは決しておかしなことではありません。

むしろ無印なんかはその「自由度」の方が今よりずっと際立っていたでしょう。場合によっては弱点肉質をついたりなんだりというのはごく少数の「超ウィザード級ハンター」のみが用いる技、という状況になる可能性だってあったと思います(攻略本が出なければ、解析サイトがなかったら)。

客観的に見るならば、現行のモンスターハンターはその「超ウィザード級ハンター」ばかりが増えてしまい、そこへ難易度の照準を合わせて上位・Gクラ スを積み重ねていった状態である、とも言えます。皆さん現行のシリーズに色々嘆かれてますが、そもそも「弱点肉質をつきまくる」ような狩りをモンスターハ ンターは本来「前提としていなかった」、という可能性だってあるのですよ?と、言うよりぶっちゃけそれが現行シリーズのアンバランスさの正体でしょう。

しかし、それが現状ではあっても、どうにかこうにか自由度を保った狩りはアタッカーハーフの介入という条件の下で可能ではある、というところまで来ました。誤解を招くといけないので明言しておきますが、ここで言うアタッカーハーフとは、狩りの一手法、ということを意味していません。「勝利条件」を突き詰めたところに立つ「ソロ討伐」というテンションに対して、完全に鏡像を成すアンチテンションを構成する存在として見ています。その「ソロ討伐」も、「○○使って○分討伐でしたww」というようなものではなく、まさに「金字塔」として多くのハンターを勇気づける「英雄の証」であるところのソロ討伐のことです。

このような厳格な「ソロ討伐」がモンスターハンター全体の頂点を成すイメージは広く認められているところでしょうが、このイメージをそっくりさかさまに反転してくっつけたい、というのが今回の目論見だったのですね。

ここに見られる「鏡像」は、ただ単に全体構造をひっくり返したイメージを意味しているのではありません。アタッカーハーフの頂点は、厳格なソロ討伐の頂点と同等の強度を持つ技術・知識・経験によって構成されるはずです。

実は、ソロ討伐というのも「金字塔」と目される狩猟録の内容が「強さ」によって構成されているのかというととてもそうは言えない、というところがあ るのです。一般に、あるベクトルの極と相反するベクトルの極は似たようなものになる、場合によっては「宙返りをうって」入れ替わっちゃったりするものですが、ソロ討伐の極とアタッカーハーフの極でもそのようなことが起こると予想されます。

では、その両極をともに構成する、その両極の「入れ替わり」を可能とする「狩りの基調」とはなにか。そこには、ハンターがハンターであり続けるために、モンスターハンターがモンスターハンターであり続けるために決して失ってはならないものがあります。

フラジャイル

ソロによる難関クエスト突破の記述というのは、大概「長い」ものになります。これは「武勇伝」を語りたいから長くなるのかというと、そうではない。 ひとことで言ったら「たくさん失敗したからその分長くなる」のです。自分はここで失敗した、あそこで失敗した、あ、ここも書いとかなくちゃ…ということで長くなるんです。

一体にこのような記録は「強さ」の記録と言えるのか、というととてもそうは思えません。多くのハンターの感動を呼び、読者自らがそのポイントを目指そうと歩を出すきっかけとなるようなソロ討伐の記録は、「弱さの集合」でできています。ここでこうした、あそこでこうしたという工夫の記述は、裏を返すと「そうしなくて失敗した」という記録でもあります。

ハンターは弱いもの、狩りは失敗するもの、そういった繊細な、フラジャイルな視線が書かせているのがソロ討伐記録というものなんですね。

さて、ここでようやく本稿のタイトルとなっている「フラジャイル」の解題に入ります。

おそらくフラジャイル・弱さそのものをテーマとして扱っている論考は『フラジャイル 弱さからの出発』(松岡正剛:著 ちくま学芸文庫)あたりしかありませんで、ここでもこの論考をベースに考察を進めてきました。

フラジャイルとは、弱さ、壊れやすさ、傷つきやすさを表す言葉です。そしてそれは、「そのようなものを扱う時に必要な繊細さ」を表しもします。全体ではなく部分、いや、断片(フラグメント)に目をやり、充足ではなく欠落に可能性を見る視線。

その内容自体は直接お読みになっていただくしかないですが(他のどの書物を読むより貴重な体験となることは保証します)、ここでは「あとがき」にある以下の一文を参照されたい。

おおむね「弱さ」は「強さ」の設定によって派生する。この関係はまことに微妙なものである。しかし、いったん強弱が決まると、弱さはもっと深いほうへひっぱられていく。本書が一貫して綴ってみたかったのは、なぜ「弱さ」のほうが「強さ」より深いのか、なぜ「欠如」のほうが「充足」よりラディカルなのかとい うことである。いいかえると、「弱さ」はなぜわれわれに近いのか、ということだ。だからといって、「弱音を吐くこと」をすすめたかったわけではない。「弱音を聞くこと」を重視したのである。


端的に言いましょう。
すべての事柄は常に、どこにあっても「弱い」のです。「強さ」によって構造している現象などない。すべては「弱さ」の集合によって構造しています。「強さ」とは、その「弱さ」の集合がある一瞬何かを「しのいだ時」にだけ現れるきわめて相対的で瞬間的な現象なのです。

強い狩りがどこにあるのか。強いハンターがどこにいるのか。
この考察の最初に何と書いたか。ゲームとは「勝利条件を満たした勝者」たるべくある、と書きました。ならば、条件が用意されていなければ勝者は発生しないのです。強者とは「ゲームによって用意された強者」になることなのです。

そして、これがゲームの限界です。

あらかじめ用意されている「強者の幻想」を与え終えたらそのゲームは終わるしかない。
しかし、モンスターハンターにおけるハンターは、その限界を乗り越えてきました。
何を以てか。「弱さ」を以てです。

なぜ?厳格なソロ討伐が「勝利条件」の追求の極限であるならば、それは「強者」の発生ではないのか?
そうです。その目標とその結果においては。しかし、その経過とその記述においては上に述べた通り、「弱さ」への視線がそれを書かせることになります。

その記述とはやがてこの道を歩むであろう後続のハンター達へのサポートに他なりません。この1点において、対極をなすアタッカーハーフと同一の視座がソロ討伐の記述の根幹を成しているのが分かるでしょうか。

無駄な苦労をしない様に、無用な落とし穴に落ちない様に。そして何よりも、自分の示した証を超えて行ってくれる様に。…そのようにして書かれる狩猟録が強さの記録になろうはずもありません。

それが強さの記述であるなら、使った装備と討伐時間だけが書かれていたら十分です。前項で指摘した「モンスターハンティング」ならば、そうでしょう。ソロ討伐の記述は打倒すべき達成目標として「記録」されるものになるでしょう。
しかし、ハンター達はそうはしなかった。弱きものから弱きものへのメッセージを以て狩猟録としてきたのです。
その時点で、狩りの目標はゲームの提供する強者の発生から、先達のハンターの打ち立てた証の継承へとシフトし、モンスターハンターにおけるハンター達はゲームの限界を乗り越えました。

ハンターは何を以てつながっていくのか。それもまた、フラジャイルな視線、「弱さ」への視線の有無が決めていくのです。

狩りの基調(転章)

さて、めぐりめぐってとうとう「ソロ討伐の記述」までもが「弱さ」からの視点による狩りの風景である、ということになってしまいました。斯様に、先に述べたひとつのテンションとアンチテンションというのは相互に入り込み合ってるものな訳です。

そこへの視線を失ってしまうと、狩りそのものがテンプレートの借用による、ゲームの提供する勝利条件の成就に終始して終わってしまうのです。

結果ではなく経過を。

それはまた、「モンスターハンターの古層」がそうであったろうと仮想した姿でもあります。「弱さ」はなぜ「深い」のか。その深さはモンスターハンターにおいてはその古層に由来し、単独狩猟の頂点までも貫くのでした。

モンスターハンターの古層がハンターどうしの協力による狩りの経過そのものであり、それが本質を成しているのならば、単独狩猟の最高峰であってもその記述は他のハンターへのサポートになっていくのです。また、逆にその視線が失われた「モンスターハンティング」がどうなるかはすでに指摘した通りです。

モンスターハンターは、その「商品化」にあたって、従来のゲームに準ずる「勝利条件」を組み込み、ちゃんと「普通の」ゲームとして取り組むことの出来る、終わらせることの出来る体裁を整えました。が、それに取り組んだハンターたち自身がその終わりには甘んじなかった、ということになるのでしょうか。
狩りの経験の継承というのが何処まで予測されていたのかがにわかには判じ難いので、それがシステム側がひそかに託していた古層の伏在によるものなのか、「弱さ」を引き受けることの出来たハンターたちの手によるものなのかというのも「どっち」とは言えないですが(両方でしょう)。

いずれにせよ、ハンターからハンターへ差し伸べられる手。それが弱きものから弱きものへ差し伸べられる手である限り、モンスターハンターはモンスターハンターであり続けることができるでしょう。これがアタッカーハーフとソロ討伐の両極を結ぶ「狩りの基調」です。

ふたを開ければなんだ当たり前じゃん、というようなことですが、現行のモンスターハンターが各シリーズにおいてどうなっているか。そこを良く見れ ば、その当たり前がまるで当たり前ではない光景も多い。ソロ討伐を「強さの代名詞」として捉えてしまう「強者たるべき」視線の強調は、その足元に色濃い影を落とし、不幸ななじりあいが暇も無い、ということになっていきます。

まず、少しでも興味のある方はアタッカーハーフとして仲間たちとの狩りへ赴いていただきたい。そこから少しでも「強がる必要のない」狩りの光景を覗いていただきたい。片方のテンションだけでない、両方向のテンションを持つ狩りの光景はそこから見えてくるでしょう。モンスターハンターの古層からその全領域を貫く「狩りの基調」もまた、そこからその姿を取り戻してゆくはずです。

さて、長々と(なんと15000文字!)書き続けてきました「フラジャイル」ですが、ひとまずはこのあたりで切ろうかと思います。一応「弱さ」へ目 を向けることがどのような光景を開くかは書けたかしら、ということで。なんだか歯切れがよくないですが、そのとおり。この一連の考察を展開する過程でも実は相当の「筋違い」をパージしてきている、という状況なのです。あ、筋違いというのはちょっとこの一連の考察とは視点の置き方が違うかしら、というような ものですね。

今回従来の「表のモンスターハンター」の全体像に対して、アタッカーハーフを主軸にしたアンチテンションとしての鏡像を提唱しました。これがまあ、 実際やってみると文字通り「合わせ鏡」状態になっちゃうのでして、あっちゃこっちゃにイメージが飛んじゃって大変なわけです。その中からフラジャイルという軸を持って上下を貫通できたのは、けだし僥倖といえましょう。

しかし、これはやはりいまだ「端緒」に過ぎないようです。その根本的な位置づけに関しては最大広域を持って示すことができた、という思いはありますが、そこを具体的に構成してゆくアタッカーハーフの処々の断片については、あるいは無印この方積み重ねられてきたソロ討伐の記述の集積に匹敵するボリュームが成されないことには如何ともし難いのかもしれません。

フラジャイルとはまた、個々の断片(フラグメント)へ送る視線でもありました。ならば、次はこの長い長い考察のすべてが詰まっているような「狩りの断片」を書いていくのが筋でしょう。その具体性のかけらがまた積み重なった時、今回取りこぼしてしまったフラジャイルなかけらたちに関する長い長い考察を書けるのかもしれません。

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